monochrome photograph
桜の樹の下には
屍体が埋まっている
!
photographs
of cherry blossoms
like graphite ...
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お前、この爛漫と咲き乱れている桜の樹の下へ、一つ一つ屍体が埋まっていると想像して見るがいい。何が俺をそんなに不安にしていたかがお前には納得が行くだろう。
梶井 基次郎 「桜の樹の下には」
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桜を撮る積もりで、春の日、金曜日に一眼レフを持ち出した。
私は桜の花の良さが解らない。春の待ち遠しさが解らない。皆が笑うのが解らない。この暖かくぼんやりとした季節が、解らない。
金曜、仕事、なし。開花情報を調べるまでもなく満開だということが解る、そんな天候続きだった。開花発表後、初めての土日ともなれば桜の下は人で埋まる。春を待ち、桜の良さが解る人々だ。彼らは桜の樹の下を、真っ青のシートで覆い、猥談を繰り広げる。それを避ける、金曜日——
土曜、仕事、あり。早めにアパートを出て、遠回りの川沿いを歩いた。桜が咲いているのを知っていた。撮って、出社して、働いた。
19 時過ぎに仕事場を出た。そのまま再び川に向かい、行灯の灯りが連なって川面に映るのを見た。土手の階段を降りながら、照明に浮かぶ桜を眺めた。土手の下は人々で混み合っていた。皆酒を飲み、肉を焼いていた。私はレンズを油煙に晒さないよう気をつけながら、画を探した。猥談は聴かれなかった。私は人に酔った。
ずっと画を探して川沿いを北上した。そのうち桜がなくなって、フィルムがなくなって、灯りがなくなって、誰も居なくなった。漠然と家の方向へ、真っ暗な土手を歩いた。
黒いコートに染み付いた肉の匂いを嗅ぎながら、ずっと一人だったことを思い出した。
自分が何を書いているのか、解らない。
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