white copy papers*

まっすぐの長い産業道路を抜けると漁村であった。

俺たちに明日はない　|　Bonnie and Clyde
監督 : アーサー・ペン　|　映画　1967年

Mar. 3, 2013　鑑賞

ボニー&クライドときたら TM NETWORK の「SELF CONTLROL」が思い浮かんでしまうのを遺憾に思うが、カントリーBGMに乗って軽快に暴れ回った果てに圧倒的な銃弾に晒されて絶命する二人は、“走り抜けた”と言うのがぴったりだと思う。
　今なら知恵なく「ボニー・アンド・クライド」とでもつけそうなところを「俺たちに明日はない」とした邦題はノーフューチャーな哀しみを漂わせながら、全力で生きているパワーを感じられて良い。

番の州臨海工業団地（ばんのすりんかいこうぎょうだんち）は、香川県のほぼ中央に位置し瀬戸内海に面した臨海工業団地・コンビナート。坂出市と宇多津町にまたがり、瀬戸内工業地域の一翼を担うと同時に香川県における重工業の中核でもある。

鉄道で瀬戸大橋を渡るたびにいつも眺めていた。遠目でも判る巨大なクレーンやタンクがひしめく人工の大地は、あまりにも工業的に洗練されており、“一般人”或いは“関係者以外”である僕を拒んでいるように思えた。
　そうでないと判ったのは2011年12月のある晩、Google Map で番の州を眺めていたいたとき、四国本土から一般道がつながっていることに気付いたからだ。しかも道路を辿っていくと、集落や学校まであることが判った。「僕も遊びに行っていいかな？」
　坂出にレンタサイクルがあることを確認し、香川へ渡ることがあったら上陸してみようと考えていた。9ヶ月後、ママチャリ単騎部隊による上陸作戦は決行された。

バスを出て少し外の空気に触れた後、八重洲の地下街に降りて喫茶店でモーニングを頼んだ。長旅と寝不足でコーヒーを飲むのはつらかった。本当に必要なのは休息だった。
　つらいコーヒーを傍らにノートを開いて日程を検討した。降車地を八重洲にしたのは、渋谷駅へ行く前に寄り道をしようと考えていたからだ。自由に動くために時間は定めず、誰に会う約束も連絡もしなかった。

9:51、会計を済ませ、まずは丸の内で写真を撮った。中国人か朝鮮人か、外国の観光客に頼まれて記念撮影もした。周りの巨大なオフィスビルの玄関にはいずれも日の丸が掲げられていた。皇居も近いことだし——と思っていたが、しばらくしてそれらがすべて半旗であり、その日が3月11日だったことに気付いた。

10:44、学生時代から手放さず持っていたSUICAに3,000円をチャージし、当時は利用できなかった私鉄改札を通った。
　都営三田線、大手町から御成門へ。地上への出口から見える空に東京タワーが聳えていた。8年前、六本木の就職支援センターへ行った帰りに立ち寄って以来だった。東京暮らしの6年間で一度も上らなかった東京タワーに、上ってみようと思っていた。
　11:08、地上150mの大展望台、11:28、250mの特別展望台にも上がった。写真をたくさん撮った。昔暮らしていた西の方角は、霞んだ地平まで建物が連なっていた。展望台をぐるぐる廻っているうちに、一緒に上ってきた人たちは誰もいなくなっていた。
　地上に降りるのはあっという間だった。1階の隅のベンチで、海老名SAで買った固いパンを烏龍茶で流し込みながら、もう上ることはない気がしていた。

芝公園から再び三田線で、次は目黒へ向かった。7年前、東京を出る直前に訪れた。庭園美術館で抽象画を観た。駅の近くの喫茶店で話をした——
　街が変わったのか、記憶が失せたのか、駅の周りの心当たりがなくなっていた。
　13:12、確信のないまま入った喫茶店でアイスコーヒーを飲んでいるうちに、もうだんだんあのときの店だったような気がしてきた。窓際の隅のテーブルを見た。心当たりは甦らなかった。偽物の記憶が上書きされたかも知れない。僕の記憶が不確かなら、それ以上のことはもうわからない。他に確認する術は永久に失われている。

目黒から山手線で渋谷へ。少し駅の周りを歩いてみたが、街には何も用事がなかった。すぐに東横線の改札を通ってホームに上がった。
　そこは記憶しているまま、何も変わっていないように感じた。何も変わっていないのを見ることができたので、旅の目的は達成された。構内ではたくさんの人たちが立ち止まって、4日後に廃止されるホームを写真に収めていた。僕は駅舎にも車両にも興味はなかった。いつかの寒かった日に立っていた場所を訪れておこうと、それだけのために上京したのだった。

しばらくの間、構内のざわめきに浸ってみたが、もう用事が済んだということが判っただけだった。あとは、22:30の横浜乗車で予約した帰りのバスに乗り込むまでの時間潰しが必要だった。14:00を過ぎていただろうか。目の前で発車待ちをしていた東横線の急行で、昔暮らしていた日吉へ行ってみようと思った。
　東急の車両が動き出すときの独特のモーター音が懐かしかった。

坂出駅近くの自転車店でレンタル自転車を借りた。菅原文太みたいなおやじが出してきたママチャリのサドルを調整して、北へ向かった。
　進むにつれ車道から一般車が少なくなり、インダストリアルな磯の香りが漂い始めた。幼少期の刷り込みによる郷愁を感じながら、今度は西へ。番の州へ向かう産業道路は無駄なく直線だった。

エル・トポ　|　El Topo
監督 : アレハンドロ・ホドロフスキー　|　映画　1971年

Nov. 22, 2013　鑑賞

画面上の整合性について考えてはいけないのだと気付くまで時間を要した。
　子連れ狼の凄腕ガンマンが砂漠を支配する強敵との斗いを通して男の生き様うんたらかんたらそんなのかと思ったら全然ちがった。非常に観念的で、聖書やイエスがモチーフと思われる描写が随所に盛り込まれている。
　自分にその下地がないので意味が解らず見落としているものは多いと思うが、全編通して映像に力があり、美しい。エヴァンゲリオンみたいだと感じた。聖書モチーフということだけでなく、それらの難解で意味ありげな描写諸々の演出としての用い方など、刺激的だった。
　どこか懐かしい感じのする音楽（その使い方も）もすばらしかった。

それと触れておかなければならない点として、狂気の沙汰が冒頭からアクセル全開で、かなりショッキング。ただ、社会や時代がマッチすれば人間はいくらでも残虐が可能で、過去には実際あったのだと思う。露悪的とも思うが、たまにそういうものに触れるのは悪いことではないと思う。何も知らないよりは。
　あと、変態がいっぱい登場するのでそれも見逃せない。

確かこの日は丸亀の猪熊弦一郎現代美術館にホンマタカシの展示を観に行ったのだった。展示の詳細は憶えていないが、行って損をした気はしなかったので良かったのだと思う。
　ひとつ、上空から新宿のビル街を写した大判の写真があって、そこでしばらく足が止まったのを憶えている。それ自体はよくありそうな空撮写真だったが、撮影された年次を見て離れられなくなったのだ。2005年以前だったか、2008年以前だったか、それをもう忘れてしまったが、とにかく自分にとって関係を見出すことのできた頃の東京の姿だった。

その後、昔おつきあいをしていた娘から「まだ産まれる気配なし」という報告が入り、丸亀駅で電車を待つ間に返信のメールを打った。「今から坂出で自転車借りて番の州まで行ってみようと思います。（中略）お大事に」